覚醒剤取締法違反

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本件は、ごく普通の主婦であったご本人様(以下「奥様」といいます)が、覚醒剤所持容疑で逮捕されたものの、起訴されることなく釈放されたケースです。

1 ご依頼日当日

ご主人様から刑事弁護のご依頼を受けました。ご主人様は、大企業に勤務する会社員でした。お2人の間にお子様はおらず、ご主人様のご両親様と2世帯住宅で生活されているとのことでした。

ご主人様によると、数日前の午前7時過ぎに、突然、警察官が何人もご自宅にやってきて、奥様を逮捕するとともに、寝室とリビングを捜索し、注射器を数本押収していたったとのことでした。ご主人様は、奥様が薬物に手を出しているなどとは全く知らなかったということで、大変なショックを受けるとともに、どうしてよいか分からず、途方に暮れていました。

2 奥様との面会

ご依頼を受けた翌日に、警察署に行き、奥様と面会しました。奥様は、落ち着いた様子でこれまでの経緯を話してくれました。

奥様によると、「長い間お子様に恵まれなかったことが原因で、ご主人様との関係がギクシャクするようになり、次第に、階下にいるご義父母様とも疎遠になってしまった。数年前には、奥様の実父の遺産相続があり、その際に奥様の実母や実姉と対立してしまったため、最近では、実家との関係も希薄になってしまった。そうした中で、興味本位で登録した出会い系サイトで、ある男性と知り合い、その男性から覚醒剤を教えられた。最初は2人で会ったときに使うだけだったものが、そのうちに覚醒剤を分けてもらい、自宅でも使用するようになった。ただ、程なくしてその男性と連絡が取れなくなったため、ここ数ヶ月は、覚醒剤を使用していなかった」とのことでした。

奥様は、半ば諦め気味に、「どうせ離婚になるだろうから、ご主人様には全てを伝えてよい」と仰っていました。

3 ご主人様の協力

翌日、ご主人様に事務所にお越しいただき、奥様から聞いたお話を、そのままお伝えしました。ご主人様は、熱心に話を聞いてくださいました。そして、「これまで、妻の孤独に全く気付くことができなかった。もし妻が望むのであれば、これまでの生活を見直し、一緒に頑張っていきたい」と仰ってくださいました。ご主人様には、なるべく時間を見つけて奥様との面会に通ってほしいこと、今後の生活をどのようにしていくかを考えて書面にまとめてほしいことを伝えました。

その後、ご主人様は、ほぼ毎日、警察署に通って奥様と面会しました。一般の方の場合、警察署での面会時間はわずか20分ですが、毎日会うことで、奥様との関係は、次第に、結婚当初の良好な関係に戻っていったそうです。面会中、2人で涙ぐむことも、1度や2度ではなかったそうです。

4 本件の解決

本件は、覚醒剤の密売人が逮捕され、そこからたどって、末端の使用者であった奥様も逮捕されたというケースでした。ただ、ご自宅からは覚醒剤そのものは発見されず、体内にも覚醒剤は残っていませんでした。

勾留満期が近づいてきたころ、検察官に対して、覚醒剤という決定的な客観証拠が発見されていない以上は不起訴にしてほしいとの内容の「意見書」と、ご主人様に書いていただいた、奥様との生活をどのように見直すかについて記載した「上申書」を提出しました。

結果的に、奥様は不起訴となり、逮捕勾留による23日間の身柄拘束のみで釈放されました。ただ、手続上刑事責任を問われなかっただけで、覚醒剤を使用していたのは事実です。奥様も、ご主人様も、その事実を重く受け止め、日々の生活を見直していくと仰っていたのが印象的でした。