痴漢冤罪事件について

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ここでは、近年における痴漢事件についての流れや痴漢事件で検事が被疑者を見るポイントについて説明します。

1.痴漢事件とは

痴漢事件は、真犯人が誰であるのかを特定することが非常に難しいという特徴があります。
痴漢の犯人であると訴えられた男性(被疑者)が、表向きはこれを自認しながら実際にはやっていないケースも多々あると推測されます。やっていないのであれば、やっていないとはっきり言えばいいではないかと思われやすいですが、現実問題として被害女性の訴えが大きく尊重される結果として、よほど明確な矛盾や不合理な点がない限り、抗弁してもそれが通らないのが現実です。
しかも、自認しさえすれば罰金ですむところ、否認したばっかりに逮捕され、しかも容易に身柄が釈放されないという事態が起こってしまうのです。
痴漢の疑いをかけられた人は、駅事務室に行き、しっかりと話し合うという流れになりますが、駅事務室に行くと、駅側担当者は直ちに鉄道警察隊に通報し、男性を引き渡すという流れになります。
ただし、痴漢事件は、非常に犯人の特定が難しい場合が多く、現に被害女性自身も犯人を特定できないケースは多々あります。にもかかわらず、他の目撃者がいないまま、逮捕・勾留に進むケースがほとんどなのです。
このように俗に言う「濡れ衣」をかけられるというケースが多いのですが、痴漢事件の場合、初期供述が重要になってきます。これは、時間が立てば事実が間違って話されるというケースも少なくないためです。被害者の初期供述へのアプローチは、現行犯人逮捕手続書の熟読、被害者の捜査初期の供述調書の開示を求め、被告人の初期供述を確保し、吟味することになっています。

2.有罪のための6要件

どのような理由で、有罪になるのかということをよく被告人の方々から聞かれますので、ここでは、有罪のための要件の説明をします。
裁判所は、被害者の証言に以下の要素を含んでいるかどうかを基準に、有罪認定の根拠を仕分ける傾向があります。
(1)詳細で具体的である
(2)臨場感があり迫真性がある
(3)被告人を陥れるために虚偽申告をする動機がない
(4)供述内容に不合理・不自然な点がない
(5)経験則に背反していない
(6)主観的確信に満ちている
ただ、否認する被告人に対して有罪判決が言い渡されている判決例の中には、上記の6要件のほかに、「不可能であるとはいえない」ことを根拠とする「可能性論」、被害者の供述が時間の経過とともに変化しているにもかかわらず、「大筋において一致」していることを理由として強引に有罪の認定をしている事例もあります。

3.痴漢の捜査

痴漢事件の捜査は、物証(ものの証拠)が少ないことが特徴です。
また、被害者により被疑者がすでに特定されているため、被害者の供述内容や、被疑者の弁明・弁解などについて、必要十分な裏づけ捜査が行われないことも多いです。
しかし、実際は、痴漢事件においても物証を収集しようとすれば収集することも可能ですし、被害者による被疑者の特定が誤りである可能性や、被害者のいう痴漢被害自体がなかったという可能性もあります。
警察や検察は、被害者の述べたとおりの自白を被疑者に迫るだけで、被害者の述べた内容と反する被疑者の供述を供述録取書に記載しないことすらあるのが、現状の痴漢捜査なのです。
また、検察官は
「否認を続けると身柄拘束がいつまでも続きます。」
「被害者と示談を成立させれば起訴しない。」
などと言って、被疑者を自白に転じさせようするケースも多々あります。
痴漢事件は一般的に確実な物証を収集するのが難しいとされていますが、被害者の述べる痴漢行為が実際に行われたのであれば、その痕跡の収集は容易なはずです。
確実な物証の収集を捜査機関が怠ってしまうと、被疑者、被害者、目撃者等の供述から、真相を解明しなければなりません。ですので、痴漢事件の場合は、もし目撃者がいれば、目撃者の供述が非常に重要な判断材料になってきます。

4.痴漢の逮捕・勾留

現在、日本の刑事事件において逮捕から勾留が95%程度になっています。
つまり、これは逮捕されたら、ほとんど場合で勾留までいくということです。
否認している痴漢の被疑者は、否認を続ける限り勾留が続き、勾留延長までされているケースが多々あります。
これは、検察側は、取調べのためには不必要な勾留を続けることにより、有休休暇ではおさまらない身柄拘束を続け、被疑者を仕事を失いかねない状況に追い込み、仕方なく被害者供述の内容の通りの自白をするよう仕向けていると疑われても仕方がない状況です。
勾留に対する対抗方法ですが、起訴前の勾留の場合には保釈制度はないものの、準抗告をすることができます。勾留期間中に被疑者の取調べを2日しか行っていないにもかかわらず、勾留の延長を認めた決定に対して準抗告し、準抗告が認められた事例もあります。
そもそも多くの場合、痴漢の被疑者は定住所や定職があるため、逃亡する可能性もきわめて低く、かつ、被害者と面識もないので罪証隠滅のおそれもないのです。また、被害者と被疑者の供述の裏づけを取るには、72時間の逮捕のみで十分です。
痴漢は無理に自白を迫られてしまうケースが多いです。痴漢をしていないのに痴漢で逮捕されてしまった方、またはその家族の方は、お早めに弁護士に相談することをお勧めします。