傷害(タクシー運転手への暴行)

本件は、被害者様との示談が成立し、逮捕されることなく不起訴となったケースです。

1 酔ったうえでの暴行

ご依頼者様は、会社員でした。駅前で久しぶりに旧友と再会し、スナックやカラオケボックスで大騒ぎをした後、午前3時ころに旧友と別れて、1人でタクシーを拾って乗車したそうです。自宅前でタクシーが停車し、料金を支払う際に、タクシーの運転手さん(以下「被害者様」といいます。)とトラブルとなったそうです。

ご依頼者様は酔っていたため、その後のことはよく覚えていないそうでしたが、車外で被害者様ともみ合いになっていたところに警察官がやってきて、パトカーで警察署まで連れて行かれたそうです。ただ、その日は簡単な取調べを受けただけで、逮捕されることはなく、迎えにきてくれた奥様とご一緒に帰宅されたそうです。

2 検察庁からの呼出し

ご依頼者様としては、何かをしないといけないとは思いつつも、どうしてよいか分からず、月日が過ぎてしまったということでした。

そして、約1か月が経ったころ、携帯電話に検察庁から電話があり、傷害事件について取調べをしたいから、○月△日に検察庁に出頭してほしいと言われたそうです。ご依頼者様は、それまで1度も刑事事件を起こしたことがなかったため、検察庁からの電話にとても驚いて、逮捕されるのではないかと怖くなり、弁護士に依頼することにしたそうです。

早々に担当の検察官に電話をして、状況を確認したところ、「処分については未定だが、現時点で強制捜査までは考えていない」とのことでした。また、担当の検察官によると、被害者様は、「ご依頼者様から、お釣りを出すのが遅いとイチャモンをつけられ、運転席を蹴り上げられたりしたため、怖くなって車外に逃げ出した。すると、ご依頼者様が後ろから追いかけてきて、上着を捕まれ、バランスを崩して転倒し、肘と膝を負傷した。その後も依頼者様ともみ合いが続いていたところ、近所の人が出てくる騒ぎになり、やがてパトカーがやってきた」と仰っているということでした。

3 取調べ前の打合せ

検察庁への出頭日がくる前に、ご依頼者様と事務所でお打合せをしました。その際、「すぐに逮捕される可能性は低いが、何らかの処分を受ける可能性がある」と伝えました。そして、検察官から教えてもらった被害者様の言い分を伝え、ご自身の記憶と違うところがあるかどうか尋ねました。

ご依頼者様は、「よく覚えていないが、被害者様が転倒したのは事実で、それ以外についても、被害者様がそう言うのであれば、恐らく事実であろう」ということでした。被害者様に怪我をさせてしまったという重要な点が事実であれば、細かいところを争っても仕方ありません。そこで、取調べまでになるべく当日のことを思い出すこと、取調べでは事実を包み隠さず話すこと、被害者への謝罪の気持ちを調書に記載してもらうようにすることをアドバイスしました。

取調べが終わった後、ご依頼者様から、「事前に弁護士と打合せをしておいたお陰で、スムーズに受け答えができた。調書に被害者への謝罪の気持ちを入れてもらうこともできた」と聞きました。

4 被害者との示談交渉

取調べがあった後、被害者様と示談交渉を行いました。示談交渉は、被害者様のご自宅で行いました。被害者様は、個人タクシーの運転手さんでした。

被害者様は、謝罪が遅かったことにご不満を持っておられましたが、ご依頼者様の事情を説明したところご理解してくださり、当方が提示した金額で示談が成立しました。蛇足ですが、示談交渉でいろいろお話をするうちに、被害者様と打ち解けることができ、若いときは警察の厄介になることが度々あったこと、ある人との出会いがきっかけで真面目になったこと、建設現場で働いた後、個人タクシーの運転手となり、最近自宅を購入したことなどを教えてもらいました。

5 本件の解決

その後、検察官に「示談書」と「被害届取下書」を提出したところ、ご依頼者様は、逮捕されることなく、不起訴となりました。

本件は、前科前歴のない、ごく普通の会社員が被疑者となった事案でした。刑事事件は、誰の身に起きても不思議ではないということを、改めて思い知らされた事案でした。